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TOP > ニュース > アーカイブ > 理研シンポジウム RIKEN Symposium
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平成17年3月1日
近畿大学
独立行政法人理化学研究所
世界初 揺れ動くタンパク質分子の"かたち"をとらえることに成功

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、近畿大学は、 独自に開発した高圧NMR*1を利用することにより、 揺れ動くタンパク質分子の立体構造を動画でとらえることに世界で初めて成功しました。 北原亮基礎科学特別研究員、横山茂之主任研究員、 赤坂一之客員主幹研究員(近畿大学生物生物理工学部教授)による成果です。

タンパク質は幅広い時間スケールでダイナミックに形を変化させますが、 その変化は一瞬で、これまでは変化過程にあるタンパク質を 直接観察することは非常に困難でした。 しかし、タンパク質に数千気圧の圧力を加える独自手法と 核磁気共鳴法*1を組み合わせることにより、 揺れ動くタンパク質分子を動画として観察することに、世界で初めて成功しました。 タンパク質の立体構造変化や揺らいだ活性型構造の観察から、 タンパク質の構造変化が原因である疾病の研究や、新薬の開発が期待されます。

本研究成果は、3月25日発行の学術雑誌 「Journal of Molecular Biology」に掲載されました。

(論文)
"NMR snapshots of a fluctuating protein structure: Ubiquitin at 30 bar―3 kbar" Ryo Kitahara, Shigeyuki Yokoyama and Kazuyuki Akasaka

「生体内のタンパク質がどのようにして機能するのか?」 これまでは、アミノ酸が多数連なったタンパク質は 「唯一正しい」立体構造を形成して機能すると考えられてきました。 しかし実のところ、 タンパク質は幅広い時間スケールでダイナミックにそのかたちを変えており、 立体構造変化がその機能に重要な役割をしていることが 最近の研究から明らかになりつつあります。 逆に言えば、機能を明らかにするには立体構造の変化を知ることが必要ですが、 その変化は一瞬で、それを原子レベルの分解能で捉えることは至難のわざでした。

近畿大学と理研の研究チームは、 数千気圧の圧力を加えるユニークな方法と、 最新のタンパク質構造解析技術NMRとを組み合わせる新しい技術を開発し、 タンパク質の立体構造変化を原子レベルの分解能での観察を、 世界で初めて実現しました。 いわば、揺れ動くタンパク質の構造を初めて「動画」として表すことに成功したもので、 今後のタンパク質研究へのインパクトは計り知れないと言えます()。

研究チームが独自に開発した高圧NMR法は、 これまで他の方法では捉えることが困難であった構造、 例えばタンパク質の大きく揺らいだ構造、 すなわち活性型構造を捉えることを可能にしました。 今後、この方法が広く適用されるようになれば、 タンパク質の関係する広い現象解明、 例えばタンパク質機能の解明などに役立つことでしょう。 アルツハイマーや狂牛病等の原因と考えられるタンパク質の誤った構造形成 (ミスフォールディング)は、 タンパク質の本質である構造の揺らぎと深く関係しています。 タンパク質の活性型構造を知ることにより、 ミスフォールディングをターゲットとしたより効率的、 合理的な特効薬開発が可能となります。 さらに、タンパク質は工業的に広く利用されていることから、 機能向上を目的としたタンパク質の工学設計に貢献することになるでしょう。


補足説明

※1 NMR(核磁気共鳴法)
Nuclear Magnetic Resonance。 静磁場中の分子に電磁波を当てると、 分子を構成する原子の磁気的環境によって吸収する周波数が異なる。 その固有の周波数を信号として取り出し、分子構造の決定に役立てることができる。


●図1

図.高圧NMR法による揺れ動くタンパク質(ユービキチン)の2つの"スナップショット"。 (A)は生理条件下で最も多く存在するかたち。 (B)は生理条件下では希な「活性型」のかたち(高圧下(3000気圧)で初めて捉えることに成功)。

(問い合わせ先)
 〒649-6493
 和歌山県那賀郡打田町西三谷930
 近畿大学・生物理工学部・生物工学科 
 赤坂一之 教授
 電話:0736-77-0345
 FAX:0736-77-4754